「筑波大学附属駒場中学校」首都圏の中学受験を目指す人でもしもこの名前を知らない人がいれば、その人は完全にもぐりでしょう。
天才が通う学校として有名な開成や灘といった学校名は、中学受験に関係のない人でももしかしたらこの両校の名前は聞いた事があるかもしれませんが、中学受験関係者の間でそれら2校と同等の、もしくはそれ以上の驚異的な大学合格実績を出しているのが筑波大学附属駒場中学校だからです。
筑波大学附属駒場中学校、通称「筑駒」。2016年度の東京大学合格者数は全国2位の102名、うち現役合格者は82名にものぼります。それに対して筑駒の2016年度の卒業生数が165名なのだからもう驚き以外の何物でもないでしょう。
現役だけで見てもなんと生徒の2人に1人が東大に進むわけです。
受験業界の事を何も知らない人から、「あれ?筑波大学附属駒場中学校って東大にエスカレーターで入学できる推薦枠とかがたくさんあるの?」と思われても不思議ではないレベルです。
東大合格者数こそ開成にトップを譲りましたが、卒業生に占める東大合格率、そして現役東大合格率に関しては他校の追随を許さないダントツの日本トップなのは誰もが認めるところで、「東大に現役で入りたいなら筑駒」というのは近年の中学受験業界での常識になっています。
では一体、筑波大学附属駒場中学校がなぜそれほど東大に強いのでしょうか?
入学してくる生徒が優秀だから?学校の先生が優秀だから?
もちろんそれもあるでしょう。
ですが私は筑駒が強い本当の理由はそこではないと思っていますし、先日、筑駒卒の金融マンに直接この私の考えについて確かめてみたところこの推測は確信に変わりました。
筑駒が驚異的な東大進学率を誇る2つの大きな理由をお伝えしましょう。
筑駒生の「東大進学が当たり前」という最強マインドセット
ナポレオンヒルの名著『思考は現実化する』にもあるように、人間は考えている事によって行動を起こしますから、それが結果に現れます。過去の思考の結果が今の自分を作っています。
そう考えると思考方法、つまりマインドセットはいかに重要かが理解できると思いますし、筑駒生はこのマインドセットが強いからこそ東大への驚異的な進学率を誇るわけです。
このマインドセットというのは、いかに“自然体に”、そして“当たり前のように”持てるかどうかが重要で、つまり筑駒生にとっては星の数ほどある大学の中から東京大学を選んで受験し、そこに合格して4年間通うという事がもう当たり前のマインドセットとして受け入れられているのです。
彼らの頭の中はほぼ100%「大学受験=東京大学受験」なのですから、日頃から東大に合格する事が当然という思考で6年間を過ごしますから、結果的にも東大合格をつかみ取ってしまうのです。
では更にもう少し踏み込んで、「筑波大学附属駒場中学校の在校生を取り巻くどのような環境が、彼らの強固なマインドセットを構築しているのか?」をお伝えします。
筑駒の目の前に東大の駒場キャンパスがある
筑駒生の「東大進学は当たり前」という盤石なマインドセットを構築している背景の1つとして、彼らが毎日通う学校の目の前に、東京大学の教養学部生が通う「駒場キャンパス」があるという事実があるでしょう。
筑波大学附属駒場中学校の最寄り駅は、なんとものほほんとした雰囲気を醸し出す電車でもある京王井の頭線の駒場東大前駅ですが、そこには東京大学の駒場キャンパスが存在しています。
東京大学の教養学部、つまり1~2年生も毎日駒場東大前駅で乗り降りをするわけです。
ですから、当然東大生と接触する事も多いでしょうし、イベントやサークルの勧誘などで駅前で活動している所を目にする事も多いでしょう。
学校の帰り道などで日常的に東大キャンパスに立ち入る事も可能ですし、東大の文化祭などにも毎年気軽に足を運べるわけです。
つまり、彼らの日常生活の中には東大という存在が既に溶け込んでしまっているも同然ですから、筑駒生は6年という歳月をかけて自然体で東大の事を知り、東大の事におのずと興味を持てるようになるのです。
まずは物理的な親近感から入っていって、次第に東大への心理的な親しみを持てるようになる、といったところでしょうか。
全国の東大を目指す他校の受験生が、わざわざ東京まで新幹線や飛行機でやってきて1日だけの東大見学をするのとは雲泥の差で、こういった恵まれた環境が彼らの東大志向の強固なマインドセットを形成するのです。
この考えを筑駒の卒業生に確認したところ、やはりその影響は一番大きいとの事でした。
中学で入学した時点で既に東大志向
近年では既に、「現役で東大に行くなら筑駒」というブランドが出来上がりました。ですから、毎年筑波大学附属駒場中学校に入学して来る生徒の9割以上が、既にこの時点で東大の方向を向いているわけです。
もちろん中学校1年生の時点なのでこれは親の意向が大きく反映されている事は否めませんが、例え親の強制的な押し付けから入ったとはいえ、最初から東大を目指しているのとそうでないのとでは、勉強に取り組むマインドセットが違うわけです。
漠然と「良い大学に行きたい」という目標と、頭から「現役で東大に行きたい」という明確な目標とでは、勉強のやり方が全く異なってきますからね。
最初こそ、例え親の意向で東大を意識していたとしても、前述したような物理的な好立地のお陰で、6年という歳月をかけてゆっくりと東大への興味・感心が高まっていくのです。
周りの友人達がみんな東大を目指しているという環境もまた素晴らしく、そういった環境にいれば誰でも「やっぱり東大だ」というマインドセットになるのは避けられないでしょう。
こうして、入学時点での東大志向は6年をかけて更に強固なものになっていくのです。
忘れてはいけない鉄緑会の存在
上記で挙げた1つ目の要素、つまり「東大進学が当たり前」という最強のマインドセットによって筑波大学附属駒場中・高等学校の脅威の東大進学率が形成されています。
その背景には筑駒に入学してくる時点で生徒の学力が相当高いという事ももちろんありますし、学校での授業が良いというのもあるのかもしれません。
しかし、筑駒の脅威の東大進学率を形成しているのは、最強のマインドセットともう1つ、「鉄緑会」の存在だと私は考えています。
鉄緑会の存在は、中学受験業界の塾講師の先生方の中でも知らない方も結構いるようですし(特に関東圏以外の方は)、東大を目指して大学受験勉強をしている受験生の中でも、首都圏以外の受験生は知らない生徒が大半でしょう。
では、鉄緑会とは一体何なのか?簡単にご紹介します。
筑駒生の半数が通う「鉄緑会」という謎の塾
鉄緑会はなんと、筑駒生の全校生徒の半数が通う塾です。更に言えば、開成の生徒の約3割が、桜蔭の生徒の約4割が、麻布の生徒の約1割が通っている塾です。
つまり、「中学受験を経験した首都圏の最難関中高一貫校の優秀な生徒達をごそっと集めているヤバい塾」というわけです。
そしてこれをお伝えするとその凄さが端的に伝わるかと思うのですが、日本最難関である東京大学理科3類の合格者の約6割が鉄緑会の出身者で占められています。
つまりどういう事かと言いますと、鉄緑会は知る人ぞ知る東大受験対策専門塾です。
鉄緑会の創立は古く1983年で、東大医学部の同窓会組織「鉄門倶楽部」と東大法学部の自治会「緑会」が名前の由来になっています。
ですからその名の通り、東大医学部や東大法学部を目指すような指導をする塾という事で、東大の在校生やOB達が教鞭をとっているのです。HPにもあるように、まさに日本一の実践的頭脳集団による指導が受けられる塾ですね。
特徴的なのは指定校制を敷いているところで、小学校を卒業したばかりの中学校1年生の段階であれば、指定校に該当する学校の生徒であれば、入学試験を免除されて無条件で入塾できるのです。
当然、東大進学率ナンバーワンの筑駒は鉄緑会の指定校ですし、開成や麻布なども然りです。この指定校は時折入れ替わる傾向にありますし、鉄緑会に実際に通っている生徒達の学力を見ながら、数年に一度指定校を入れ替えたり増やしたりしています。
(※2016年12月の現時点では、筑駒、麻布、開成、駒場東邦、海城、筑波大附、栄光、聖光、豊島岡女子、桜蔭、雙葉、白百合、女子学院の13校が指定校になっています。)
鉄緑会には東大に現役合格するために特化した門外不出のノウハウ、独自テキストがあり、それさえしっかりやっていれば、余裕で東大に合格できる学力がつくというものなのです。
鉄緑会の宿題を授業中に行ったり居眠りする筑駒生を先生も黙認
鉄緑会の特徴的なスタンスとして、東大合格のキモとなる英語と数学の2科目に関しては高校1年生までに東大に受かるレベルの力をつけてしまい、高校2年生からは国語、理科、社会の勉強に入っていくというものがあります。
一般的に学習カリキュラムが公立校に比べて早くて前倒しだと言われている全国の中高一貫校ですら、高校2年生の段階で高校のカリキュラムを追えるわけですから、それと比較するといかに鉄緑会は驚異的なスピード感で授業が展開されているかが分かるでしょう。
中学受験でいうと、なんとなくサピックスの最上位クラスに通じるものがあるのではないでしょうか・・・?(笑)
ただし、鉄緑会ではそれくらいのスピード感で前倒しで授業が進んでいくので、宿題の量もかなりの量が課せられます。
それを着実にこなしていかないと鉄緑会の勉強についていけなくなってしまうわけですから、生徒達は必死です。
私が会ってお話した筑駒の卒業生が言うには、授業中にこっそりと鉄緑会の宿題をしている生徒が筑駒でも結構いるようで、学校側もさすがに「在校生の半数が通っている塾」となると、その存在の大きさを把握していますから、先生によっては内職をする生徒を知っていて見逃している先生も少なくなかったそうです。
逆に言うと、鉄緑会で先に勉強を行ってしまうので、学校の授業は復習のような形になってしまうようで、これは良くも悪くも知識の定着にはつながるのでしょう。
ただこの証言からも分かった通り、決して筑駒での授業レベルが高いわけではなく、筑波大学附属駒場中学校という環境に加えて、鉄緑会というハイパーな塾の存在があってこその脅威の東大進学率だという事がお分かり頂けたのではないでしょうか。
保護者は筑駒の授業料だけで東大を目指すという考えは捨てる事
だからこそ気を付けるべきなのが、筑波大学附属駒場中学校に可愛い我が子を入れようとしている保護者の方々の方でしょう。
「筑駒にさえ入れればもう安心」ではないのです。
卒業生の証言を真に受ければ、むしろ学校側は面倒見が良い方とは言えないでしょうし、学校だけ通ってしっかり授業を受けていても東大に合格できる可能性が高いとは決して言えないという事なのです。
何しろ中1~高3の全在校生の半数が鉄緑会に通っているくらいです。もちろん周りの友人達の動向に流されて自分も鉄緑会に通うというケースは多いとは思いますが、それでもやはり筑駒の授業内容が決して良いわけではないから塾に通うとも考えるべきでしょう。
学校の授業だけで大学受験対策をして貰えるところが良いのであれば、海城や渋幕、渋々あたりが首都圏では面倒見が良いと評判なのでオススメです。
筑駒に入学し、そして鉄緑会をはじめとした塾に通わせないと現役での東大合格は難しくなるという事ですから、塾に通わなくて済む“面倒見の良い中高一貫校”を希望している保護者の方には、むしろ「筑駒はオススメできない」と言わざるを得ません。
中学受験で筑駒の狭き門を目指しているご家庭は、合格後は学校の授業料と、塾の授業料、このダブルの費用を6年間払い続けるという覚悟をしておいた方が良さそうですね。
まあとにかく、私立中高一貫校に子供を通わせるのはお金がかかるんです・・・
仮に塾に出せるだけのお金の余裕が無くて、「クラスのみんなは鉄緑会に行っているのに自分は行けない」という事になれば、子供がかわいそうですからね。
子供の将来の事を見据えた中学受験を
このように筑波大学附属駒場中・高等学校の東大合格率が凄い事であったり、あるいは他校にしても例えば開成中学校・高等学校の東大・医学部合格実績が凄いという事実ばかりが取り沙汰されますが、実はその裏には鉄緑会の存在があったりしますから、学校名などの「うわべ」だけの情報に惑わされないで、真実を掴みに行く情報収集力が大切ですね。
かと言ってその反面、鉄緑会などの塾に中学校1年生から高校3年生の間ずっと通い続けるのも考えもので、子供は毎日学校と塾の宿題に終われ続ける事にもなり兼ねます。
私はそれもどうかと思うんです。
一部では鉄緑会に通う生徒の事を鉄緑戦士と呼んだりするそうですが、鉄緑会と学校との宿題量に忙殺されて学力を落とし、やる気をなくしてしまった生徒の事を鉄緑廃人とも呼ぶそうですからね…
中学校、高校の6年間は2度とやって来ない貴重な思春期です。大人になってから戻りたいと思っても戻れません。
それだったら、勉強だけじゃなくてもっとやっておくべき事ややりたい事にチャレンジするというのも1つですし、そんなに血眼になって「勉強!勉強!」とカッカしなくても、それなりの中高一貫校に入って6年間かけて効率的な学習をすれば、志望する大学には十分合格できるものです。
私はこの大切な中高の時期にこそ、将来的な目標、自分の人生で成し遂げたい事をじっくりと時間をかけて考えてみるべきだと思っています。親御さんとも話す時間をたっぷり設けて欲しいとも思っています。決して目先の授業や宿題、大学合格にだけに囚われて欲しくないのです。
中高一貫校はそういった意味では6年間も時間がたっぷりあるわけですから、これを有効活用しない理由はありません。
世の中にはどんなビジネスがあってどういう職業があって、どんな面白い世界があるのか?子供達はただ学校や塾で勉強するだけじゃなくて、こういった世の中の事を早い段階でどんどん知っていくべきですし、将来の日本の頭脳を育てる私立中高一貫校こそが、もっともっと子供の可能性を広げる教育をして貰いたいものですね。
中学、高校時代こそ、興味のアンテナを広げて様々な物事にチャレンジするべきです。これは自分の息子にも言い聞かせるつもりで本音で書いています。
ですから、そういった将来的な事までしっかりと考えて、東大や医学部などの進学実績だけにはとらわれない子供の将来を考えた意図ある中学校選びをオススメします。